「第八話 夜、芳乃家にて」





「ふぅ、疲れた……」

 あたたかいお湯で満たされた湯船に体を沈み込ませて一息つく。クソ暑い夏の夜とはいえやはりお風呂のお湯の適度な熱さは体中の疲れを癒やしてくれる。
 てんやわんやの映画の撮影を終えて、帰り道に商店街に寄って夕飯の買い物、そして、家に帰った後には誰が夕飯を作るのかで軽く一騒動あり、(具体的には義之は料理をするのかしないのか、するのなら誰と一緒に料理をするのか、またしないのなら義之に手料理を振る舞うのは誰なのかという争いだ)それを経ての入浴タイムだ。この芳乃家で自分を巡っての騒動があるのはいつものこととはいえ、映画の撮影なんていう慣れないことをしたせいもあって今日は特に疲れた。
 ほどよく熱されたお湯の中で幸福感に浸る。一日の疲れが体の垢と一緒に体から抜け落ちていくかのような感覚だった。心地のいい脱力感に体を任せれば自然、意識もぼんやりとしたものになる。何をすることもなく熱に浮いた頭でボーッと湯船に浸っていると、

「義之くーん、入るね〜♪」

 そんな声が洗面所から響いた。
 え……、と反応する暇もなく、風呂場と洗面所をへだてている扉は一気に開かれ、小柄な影が飛び込んでくる。リボンをほどいたアッシュブロンドの髪に白磁のように真っ白な肌。

「えへへ〜」

 一糸纏わぬ姿のアイシアがそこには立っていた。

「ア、アイシア……」
「えへへ、入ってきちゃった♪」

 きちゃった、と可愛らしく言って誤魔化そうとしているが義之としてはそれで流せるはずもない。

「おいおい、またかよ」

 アイシアと一緒にお風呂に入るのは初めてのことではない。流石に問題のあることだろうと思いながらもこれまで何回もあったことだ。スキンシップの激しい彼女を戒める意味合いで義之はアイシアを一睨みするが、それでこたえるアイシアではない。

「いいじゃない。あたし、義之くんと一緒のお風呂に入りたいんだから♪」

 にっこりと。満面の笑みでアイシアはそう言うと辟易する義之に構わず湯船にその小柄な体をつける。問題のある行為だとは思いつつも、既に湯船に体をつけたアイシアを追い出すようなことはできず、元より半ば諦め気味の義之は「やれやれ」と言いながらもそんなアイシアの行動を容認した。

「あたしと義之くんは愛し合ってるんだから。何も問題はないよ」

 芳乃家の浴槽はそう広くない。アイシアは義之のそばにぴったりとその身を寄せた。

「せっかくの機会なんだし、二人っきりで思う存分イチャイチャしようよ」
「イチャイチャするのには賛成なんだが……」

 歯切れの悪い義之の言葉にアイシアが小首を傾げる。

「またさくらさんが入ってきたりしないか?」

 そう。アイシアが義之が入浴に乱入してくる時はさくらもまた同じように乱入してくることがあるのだ。そうなると二人っきりもイチャイチャも何もなくなってしまう。
 そんな義之の懸念にアイシアは「大丈夫!」と笑った。

「さくらなら今、テレビで時代劇を鑑賞中だから。少なくとも終わるまではこっちに来ることはないよ」
「じゃあ音姉は?」

 夕飯を共にした音姫はまだこの家にいる(由夢もだが)。彼女もまた義之がお風呂に入っていると一緒に入ろうとする人間の一人だ。

「音姫ちゃんは入ってこないって」
「そりゃまた……」

 えらく物わかりがいい。姉のことだからそう簡単に引き下がるものとは思えないが……。

「実はね。明日、義之くんと一緒に料理する権利を音姫ちゃんに譲ったの。それを交換材料にして、今日はお風呂に入ってこないって約束してもらったの」
「なるほどな」

 そういうことか。自分の知らぬ間に二人の間で取引が行われていた訳だ。

「……と言うわけで! 思う存分イチャイチャしようね、義之くん♪」

 邪魔者はおらず、二人っきりのお風呂。アイシアは心の底から嬉しそうだった。

「それじゃあさっそく……んー」

 アイシアが義之の方に顔を上げて、ねだるような仕草を見せる。それが何を意味しているのかは義之にはすぐわかった。

「ん……」

 アイシアの唇に自分の唇をそっと重ねる。アイシアの唇はいつも通り、やわらかかった。

「んんっ、んっ……」

 二度三度、いったん唇と唇を離し、もう一度重ねるという行為を繰り返す。アイシアの唇。それは何よりも甘美な感触を義之に与えてくれる。

「ん…………ぷはぁ」

 最後に長い口付けをし、名残惜しさを感じながらも義之はアイシアの唇から自らの唇を離した。えへへ、とアイシアが照れ臭そうに笑う。その頬が紅潮しているのはおそらくはお風呂の熱のせいだけではないだろう。

「義之くんってキス好きだよね」
「まぁな」

 意地悪く笑うアイシアに、頷く。別段、隠すことでもない。そして、キスが好きなのはアイシアの方もまた同じだろう。

「これでもかってくらいにあたしの唇に吸い付いてくるんだもん」
「そりゃ、アイシアの唇って滅茶苦茶やわらかくて気持ちいいからな」

 何度でもキスしたくなる。思ったままのことを口にすると、アイシアはかーっと頬を一段と紅潮させた。

「まったくもー、そういうことを天然で言っちゃうのは反則だよ〜」

 そうして、照れ隠しのようにぶくぶく、と口許を湯船に沈めた。それから、暫しの時間が流れ、

「義之くん」
「ん?」

 アイシアの言葉に彼女の方を見る。アイシアは上目遣いで義之を見ていた。それはまるで何かをねだるような。

「足の上に座らせてもらってもいいかな?」
「えっ?」
「だめ、かな?」
「い、いや……別に構わないけど……座り心地は保証しないぞ?」

 義之の言葉に大丈夫だよ、とアイシアは頷く。

「義之くん以上にあたしにとって座り心地満点の椅子はないんだからさ」

 そう言って、アイシアは笑った。そうして、湯船にあぐらをかいて座っている義之の足の上にアイシアがゆっくりと腰掛けた。

「重くない?」
「ああ。っていうか、お湯の中だしな」
「それもそっか」

 それまでも義之とアイシアはぴったりくっついてお風呂に入っていたが、今はそれ以上に密着した距離。義之の正面にアイシアの背中があり、そのうなじを見ると思わずどきり、とした。
 自然、アイシアは体をかたむけ、義之の胸元にくてっとその背中を預ける。アイシアの体重が義之の体に圧力となってかかるが、お湯の中、それに元々華奢なアイシアの体だ。つらくもなんともない。

「えへへ〜♪」

 義之を椅子代わりにし、アイシアは満足げに笑っていた。
 間近で感じられるアイシアの存在。アイシアの香り。アイシアの感触。座っている側ではなく、座らせている側だというのに幸福感が義之を包む。ぎゅっと。気がついたら後ろからアイシアを抱きしめていた。きゃっ、とアイシアは最初は驚いたような声をもらしたものの、特に抵抗することはなく、抵抗がない、と見ると義之はさらにアイシアを抱く力を強める。

「義之くん……」
「アイシア……」

 お互いをへだてるものは何もなく。ゼロ距離で義之とアイシアはお互いの存在を確かめ合う。

「えへへ……なんだかちょっと不思議な気分かも」
「不思議な気分?」

 義之の問いかけにうん、とアイシアは頷く。

「義之くんにぎゅっ、てされるのは別に今に限った話じゃないし、その度に幸せな気分になれるのもたしかなんだけど……こうしてお風呂の中で、裸同士でそれをやるっていうのはなんだかちょっと不思議な気分になるんだ」

 お互い産まれたままの姿で、着飾る物は何もない。文字通り生身の体と生身の体。そんな状態で触れ合えばお互いの鼓動も、存在もより強く感じることができる。アイシアの言うことが義之にはわかるような気がした。

「こうして触れ合うことができて……幸せだね。義之くん」
「……ああ、そうだな」

 少しでも長くこの状態を続けていたい。どうやら今日のお風呂は長風呂になりそうだった。



 そして、いつもの男の一人風呂では考えられないくらいの長い時間を湯船の中で過ごし、長風呂を終えて居間に戻った義之とアイシアを待ち構えていたのはさくらと音姫、そして由夢の呆れるような視線だった。

「今日の兄さんは随分と長風呂でしたね」

 普段から義之には考えられないくらい長風呂をする癖に由夢がそんなことを言う。

「まぁ、義之くんだけでなくアイシアも一緒だしね〜。きっとあんなことやこんなことをしてるうちに時間が過ぎちゃったんだよね〜」

 さくらは呆れているようでいてどことなく楽しげだ。

「うう〜! アイシアさんずるいです!」

 交換条件として明日の夕食を義之と一緒に作る権利を得たというのに不満げに音姫がそんなことを言う。
 じとり、と。三人分のジト目が義之とアイシアを見る。「仕方ないだろ」と義之は慌てて言い訳めいた言葉をもらした。

「二人で風呂に入ったんだ。体とか洗う時間も二倍になる。それにアイシアは女の子なんだからお風呂が長くなるのも仕方がないだろ」
「本当にお風呂に入るだけだったんですか?」

 疑惑に満ちた由夢の問いかけに「ああ」と少し上擦った声で答える。キスをしたり抱きしめたり、ほんの少し恋人同士のスキンシップをしたものの、それはこの場で言うことではない。

「うう〜、絶対絶対そんなわけないよ〜! 弟くんとアイシアさん」
「そうだね〜、ボクもそう思うよ。きっとイチャイチャらぶらぶ、誰も入れない空気を形成して二人っきりのお風呂で楽しんだんだよね〜?」

 しかし、それもこの姉と保護者にはお見通しのようだった。「ですよね」と頷いた由夢も加えて、三人がかりのジト目攻撃にさらされ、義之はたじたじになっていたところ、

「そうだよ。あたしと義之くんはお風呂で思いっきりイチャイチャしたけど、悪い?」

 開き直ったアイシアの言葉が場に響いた。

「あたしは義之くんの恋人なんだから定期的に義之くんとスキンシップをとる義務があるの」
「ずるいです! アイシアさん!」
「だいたい音姫ちゃんには明日の晩ご飯を義之くんと一緒に作る権利と引き替えに納得してもらったはずでしょ! なんでそんなに文句言うの!」

 アイシアの正論に「それはそうなんですけど……」と音姫が少し語気を弱める。

「あの時はその交換条件でアイシアさんが弟くんと一緒のお風呂に入るのもいいかもって思ったんですけど、今になってみるとやっぱり割にあわない交換条件だったというか……やっぱりアイシアさんに弟くんをとられたくはないっていうか……」

 風見学園の生徒会長を務め、どんな時でも堂々としている姉らしからぬ歯切れの悪い態度だった。自分のことになるといつもこうなのだ、この姉は。義之は逆に音姫の方に呆れた。そんなことを思いながら姉を見ていると姉は「あ、そうだ」と何かを思いついたように口を開いた。

「私が許可したのはアイシアさんが弟くんと一緒にお風呂に入る権利だけです! お風呂の中でイチャイチャする権利までは許可してません!」

 なんとも無茶苦茶な理論だった。

「そ、そんな不条理な!」

 アイシアも呆れ半分、驚き半分で口を丸くする。が、姉はその理論で譲る気はないようで胸を張り「……というわけで」と言葉を続ける。

「代償として弟くんが夜寝るまでの間、弟くんとイチャイチャする権利は私が貰います」
「だめ〜〜! 義之くんとはこれから寝るまであたしとイチャイチャするの!」
「あ! それならボクも参加する〜! 義之くんとイチャイチャした〜い!」
「さくらさんまで入ってこないでください!」

 音姫とアイシアの二人だけでも話がわけのわからないことになってるのにさくらまで乱入されればそれこそ収集がつかなくなる。

「ほんとにもう、これだから兄さんは……」

 そんな様子を眺め呆れ果てたように由夢がため息をつく。

「義之くんとはあたしがイチャイチャするの!」
「ダメです! 弟くんとは私がイチャイチャします!」
「二人とも何言ってるの、義之くんとイチャイチャするのはボクだよ♪」

 真剣な二人とからかいまじり遊び半分といった様子のさくらを前にどうしたものか、と義之は困り果てた。はたからは「早くなんとかしろ」という無言のメッセージを由夢が送ってきている。と、その時、ふと思い出したことがあった。

「っていうかさ三人とも」

 義之が声をかけると三人は口論を中断して義之の方を向いた。

「みんながお風呂からあがったら映画の台本の読み合わせをする予定じゃなかったっけ?」

 あ、と三人がかたまる。
 そうなのだ。今日、無事に撮影を終えることができたのもこれまで何度も読み合わせで練習を行っていたからで明日以降の撮影に備えて今日もみんなで読み合わせて練習することが決まっていた。
 「そういえば」とアイシアが言えば、「そうだったね」とさくらが続ける。にっこりとアイシアは笑顔を浮かべた。

「えへへ〜、そうだったね〜。映画の練習なんだから思いっきり『お兄ちゃん』に甘えないとねえ〜♪」

 横目で音姫の方を見ながら、そう楽しげに言う。うう……と音姫が悔しそうに唇を噛んだ。
 そう。映画『ラブリー☆シスターズ』の物語の中ではアイシアは義之の妹であり思いっきり甘えられる、アイシア風に言うならばイチャイチャできる立場だが、先生役である音姫はその立場ではない。それをわかっているからこその自らの優位性を自覚したアイシアの言葉だった。

「にゃはは、ごめんね、音姫ちゃん♪」

 さくらもまた楽しげに笑う。物語の中で桜内義之の二人の妹のうち一人、さくらもまた練習にかこつけてイチャつくことができる立場だ。

「うう〜! ずるいですさくらさんにアイシアさん! 映画の練習ってお題目で弟くんとイチャイチャして〜! お姉ちゃんだって弟くんに甘えたいのに〜!」

 音姫は涙目になってそう叫んだ。


 そして。
 全員がお風呂に入った後の芳乃邸では予定通り映画の練習が行われていた。
 場所は義之の部屋である。
 義之としては居間で行いたかったのだが、練習するシーンが義之の部屋ということもあり、さくらとアイシアに押し切られた結果だった。

「…………」

 そう。現在地は義之の部屋、否、より正確に言い表すのなら――、

「やっぱり普通にやりません?」

 義之は戸惑いのまじった声でアイシアとさくらの二人に問いかけた。

「え〜、なんで〜?」
「ボクたちはこれでオッケーだけど?」

 しかし、二人から返ってくる言葉は義之の期待とは裏腹のものだった。

「うう……お姉ちゃんも入りたーい!」
「はぁ、やれやれ……」

 脇からは音姫の心底羨ましそうな声と由夢の呆れた声が響く。その声はアイシアとさくらの声と比べると遠い。いや、アイシアとさくらの声が近すぎるのだ。

「えへへ♪」
「にゃはは♪」

 アイシアとさくらは二人そろって満足そうな表情を浮かべ体を義之の方にすりつけてくる。そう現在地は義之の部屋、そのベッドの上。
 義之、アイシア、さくらの三人はベッドの上でそろって横になっているのだった。
 義之を中央に義之から見て右隣にいるのはアイシア、左隣にさくら。1つのベッド、1つの布団の中に三人の人間が入っている。そこまで広くないベッドの上、アイシアとさくらは体を横向きにして中央の義之にぴったり体を寄せているが、二人に挟まれ寝返りをうつこともできない義之としては気が気でない。
 『ラブリー☆シスターズ』。桜内兄妹の夜の一場面。兄のことが大好きな妹二人はいつもこうして兄の布団に潜り込んで眠るのだという。今、練習しているのはその場面なのだが、義之としては居間で普通に台詞だけ確認すればいいだろうという思いだった。しかし、アイシアとさくらが練習するなら本番同然に、徹底的にやらないといけないと言い張り、結局、このように撮影をしている訳でもないのに1つのベッドに三人で横になる羽目になっている。無論、姉の羨ましそうな、恨めしそうな、妹の呆れた視線に晒されているのは言うまでもない。
 なんとも気まずい沈黙が空間を支配する。最も気まずく思っているのは義之だけでアイシアとさくらは心底、楽しそうだったが。
 いつまでたっても始まらない練習に業を煮やしたのか、

「こらー! 三人ともー! そろそろ練習を開始しないとダメでしょ!」

 音姫が大声で叫んだ。おそらくは義之たちがいつまでたっても練習を始めないことを注意しただけだ。決して自分を抜きにイチャイチャしているのに怒ったわけではない……と思う。
 音姫の言葉に「にゃはは」とさくらは笑った。

「怒られちゃったね♪」
「そんなに楽しそうに言わないでください……」
「ごめんごめん♪ でもこうして義之くんと一緒に寝るのって随分、久しぶりだったからちょっとね」

 懐かしくって、とさくらは続けた。

「覚えてるかな、義之くん。義之くんがちっちゃかった頃、こうして一緒に眠ったこともあったよね?」

 さくらは微笑む。やさしい笑顔だった。なんとなく照れ臭くなり義之は視線をそらす。

「おぼろげに……ですが、そんなこともあったな、というのは覚えています」

 さくらは満足げにそっか、と呟いた。

「えへへ……こうして一緒に寝るなんて子供の頃に戻ったみたいだね」
「そうですね」

 そう考えれば、恥ずかしさよりも懐かしさが強く感じられる。義之の口許にも自然と笑みが浮かんでいた、と。
 ぽかぽか。

「……えっと、アイシアさん」
「なに?」
「どうして俺を殴ってるのかな?」

 アイシアの方に顔を向け問う。アイシアは怒っている、というよりどちらかと言うとすねたような顔をしていた。

「義之くんが恋人のあたしを無視してさくらとふたりっきりの空間にひたってるから」
「いや、そんなことないけど……」
「ううん。そんなことあるよ」

 ねっ、由夢ちゃん、とアイシアはベッドの外にいる由夢に問いかける。

「思いっきりさくらさんとふたりっきりの空間作ってましたね」
「うう〜、弟くんと昔一緒に寝ていたっていえば私もそうなのに〜」

 由夢の呆れ声と音姫の涙声。

「っていうかさくら。義之くんにくっつきすぎ〜」
「え〜、アイシアも同じくらいくっついてるじゃない?」
「あたしはいいの! 義之くんの恋人だから!」
「ならボクだっていいよ。なんたってボクは……」

 義之くんの母親なんだから。そう言うとさくらはただでさえ近かった義之との距離をさらに詰め、体を密着させる。やわらかい感触が義之の左半身に触れ、どきりとする。それに対抗してかアイシアもさらに義之との距離を詰めその体を密着させる。さくらの体の感触とアイシアの体の感触。お風呂上がりということもあり鼻腔をくすぐるいい臭い。女の子の香り。バクバクと義之の心臓が騒ぐ。

「あ〜、もう! 三人とも! いつまでそうやってるの! 練習しないとダメでしょー!」

 音姫が再び大声で叫ぶ。どうやら今夜は練習どころじゃなさそうだった。




上へ戻る