明日からは別々の道


 ――――瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ。

 2056年、1月のあの日、俺は一直線に家に帰るつもりだった。
 あれは俺と俺のパートナーにとって一番辛い時期だった。愛する人が抱えている問題を一刻も早く解決しなければいけなかったから。
 そのために、友人たちの誘いも断り、一人で考えたかったのだ。
 そう、あの冬の日のことだ。

 あの人と、最後に話したのは。

「Hi♪ これからお帰り?」

 昇降口を出たところで急に呼び止められた。

「ええ、これから帰るところですけど」

 俺の胸のあたりまでしかない背丈。意図しなくても見下ろす形になってしまう。金色の長髪に、海のように澄んだ碧い瞳。
 風見学園の学園長であり、自称・俺の保護者である彼女は楽しそうに俺を見ていた。

「あはは、やっぱりそうだよね。今日の授業は全部終わったし。 義之くんが居残りで何かするほど真面目な子だとは思っていないし」

 相変わらずの能天気な笑顔。言ってることは結構、失礼なんだけど、その笑顔を見ているとなんか許せてしまうというか。
 ま、俺は多少ばかり不真面目なのが実際、事実であるということもあるけど、それは棚に上げておく。

「さくらさんこそ、仕事はいいんですか?」
「ん? お仕事〜?」

 よくぞ聞いてくれました、とばかりに瞳を輝かせるさくらさん。
 一歩、二歩と俺の方に歩み寄ってきて、

「実は、今日のお仕事はもう終わりなんだ。ボクもいまからフリーダムタイム♪」

 両腕を広げ、万歳した。
 その様子は、まるっきり、子供そのものだ。

「珍しいですね。いつもは大分遅くまで居るのに」
「うんっ♪ だからさ〜、いっしょに帰ろうよ!」
「え……?」

 跳ねるような声と共に、俺の手を取るさくらさん。
 …………どうしたものか。
 正直なところ、今は一人でいたい気分だった。考えなければならないことが山ほどあった。
 様々なことが重なり、俺自身、結構、いっぱいいっぱいな状況だった。
 だからちょっと、その能天気な態度が鼻について、思わず邪険に返してしまう。その寸前だった。

「ねっ、いいでしょ。 一人で帰るより、二人で帰った方がきっと楽しいよ♪」

 ………………。
 胸の中の嫌な感情が、少しずつ、解けていくのを感じた。
 彼女の笑顔には、それだけの力があったから。


「この喫茶店、高いですよ」

 気が付けば、さくらさんと一緒に喫茶店の中に居た。
 円形のテーブルに向かい合って座る。
 いっしょに帰る、といっても一直線に家に向かうつもりだったのだが、さくらさんに促されるまま、結局、逆らうこともできず、ここに来てしまった。
 さくらさんがオススメだと言うこの喫茶店。勧められるまでもなく、俺もその存在は知っていた。
 商店街の片隅にある小さな喫茶店。
 いつのことだったか、音姉と由夢に連れられて来たことがある。二人が絶賛していただけあって味は文句なし。店の雰囲気も、純洋風で固められた店内。どでかいオルガンまで置かれたその雰囲気は最高で、かかっているクラシックのチョイスも良好。まさに、非の打ち所がない。……お値段以外は。
 この店。こだわりの厳選ブレンド、だかどうかは知らないが、一番安い物ですら700円。ケーキなどとセットで頼めば一人でも軽く2000円近くはかかってしまうのである。
 その時にかかった金額は、いつもこういう場面では完全に俺のおごりになってしまうはずが、由夢の奴が自分から「割り勘でいいです」とか言い出したことから、お察しいただけるだろうか。

「だいじょぶ、だいじょぶ。ボクがおごるからさ。なんでも頼んじゃって」
「高い、ですよ?」
「も〜、大丈夫だって! こう見えて、お金にはあんまり困ってないんだよ?」

 たしかに。そうだろう。
 学園長としての収入だけではなく、天才であるさくらさんは社会的にも科学的にも、多くの有用な発明をして、特許を大量に取っている。
 またアメリカの大学や研究部にも籍を置いており、いまだにそちらからの収入もある。それらのおかげか、芳乃家は経済的に困っているようなところは見たことがなかった。
 前に一度、買い物などで家計の一端を担当している身として、さくらさんと収入や貯金等の話をしたことがあるんだが、その時に「もしボクがいなくなっても、君が暮らしていけるくらいはあるから、お金の心配はしなくていいよ」と、微妙に不吉なことを言われたのがやけに印象に残っている。
 まぁ、冗談で言ったんだろうけど、そういう不吉な冗談はやっぱりやめてほしい。

「ん〜と、ボクはこのブレンドハーブティーとチーズケーキにしようっと、義之くんは?」
「俺はカフェ・オレで」
「ケーキは頼まないの?」
「ええ。甘いものは苦手なんで」

 一番安いカフェ・オレ一つ。
 あっちが「おごる」って言ってるんだけど、それでもやっぱり、遠慮してしまう。
 生まれながらの貧乏性か……、それとも単にヘタレなだけか……。

「もう、遠慮なんてしなくていいってば! あ、ウェイターさん!
 ブレンドハーブティーとカフェ・オレ……じゃなくてオリジナル・カフェ・オレね、それと、チーズケーキとショコラ、全部一つずつ、お願いしま〜す」

 しかし、さくらさんはウェイターを呼ぶと、勝手に注文を改ざん、付け足してしまった。
 一応、説明しておくと、この店の商品は「オリジナル」と冠が付くか否かで300円も値段に差がある。
 便利な言葉だよなぁ、オリジナル。どのあたりがオリジナルで他と違うかなんて、俺には多分、飲み比べをしても解らないだろうけど。
 抗議の声を挟む暇もない。
 ウェイターは注文を復唱すると、素早く伝票を書き上げ、戻っていってしまった。

「か、勘違いしないでね、義之くん! これはボクが食べたかったから頼んだだけで、別に君のために頼んだわけじゃないんだから!」
「何ですか、その口調は」

 眉を吊り上げて、腕を組んで俺を睨むさくらさん。しかし、俺が指摘すると破顔一笑。

「にゃはは〜♪ ちょっと由夢ちゃんや美夏ちゃんの真似をしてみたんだ〜。どう?可愛かった?」
「…………良く解らないですけど、人には向き不向きってものがあるんじゃないですか」
「う〜〜〜ん。やっぱり似合ってない?」
「ええ。声、引っくり返ってましたし」

 なんていう馬鹿なやり取りだろう。自分でも馬鹿だと解っている。
 しかし、今の俺には、こういうやり取りが必要な気がした。そして、さくらさんにとっても。
 そんなことをやってる隙に、気が付けば注文の品は全てテーブルの上に並べられていた。
 この店。味は確かにいいんだが、如何せん値段の高さがデメリットとなり、あまり繁盛していない。今だって、俺たち以外にはお客さんはいない。
 まぁおかげで、すぐに注文が来たし、周りを気にせず話せるってことで、客の立場としては嬉しいんだけど。
 まずはカフェ・オレ……じゃなくてオリジナル・カフェ・オレを一口。

「どう? おいしい?」

 さくらさんが身を乗り出してこちらを見上げた。
 「ええ」と軽く相槌を打つ。
 普通に美味しい。しかし、値段を考えると……、といったところか。いや、美味いんだけどね。たしかに。

「さくらさんの方はどうです? ブレンド・ハーブ・ティー」

 さくらさんは俺の言葉に頷き、洒落た装飾のカップを両手で持ち上げた。
 その綺麗な色のお茶を、口の中に含み――、

「って、あちちっ!」

 ――悲鳴を上げた。
 カップを置き、涙目になって舌を出す。そんな姿に思わず頬が緩む。

「ふー、ふーっ! こんなに熱いなんて聞いてないよっ。 ……って義之くん、何、見てるのさ」
「あ、いいえ、別に何も」
「嘘だ〜。絶対、ボクのこと馬鹿にしてたっ」
「ははは、すみません」
「全く! 学園長を馬鹿にするなんて、礼儀がなってないな〜。親の顔が見てみたいよ」

 一応、形式上の親は貴方でしょう。

「……って、親の顔、ここにあった!」

 俺が指摘するよりも早く、さくらさんが自分で自分の発言に突っ込みを入れる。
 といっても、この一年はともかく、俺は朝倉の家に預けられていた期間の方が長いから育ての親はそっちってことになるのかな。
 じゃあ、ここで言う親の顔ってのは、音姉や由夢の親父さんか、由姫さんか。…………もしくは、純一さん?

「ところで、義之くん。ちゃんと勉強してる〜?」
「う……そりゃあ、まぁ、一応」
「名前は伏せておくけど非公式新聞部のS君から、君が冬休みの間、ずっと置き勉していた、っていう情報があるんだけど」
「いっ?! いやぁ、あいつの奴の言うことなんて信用していたら、ダメですよ。色々と」
「こればっかりは有力情報だと思うけどな〜。だって、ボク、冬休みに君が家で勉強していたところ見てないもん」

 匿名希望者S氏がさくらさんにもたらした紛う事なき事実である。事実だけに言い逃れができない。
 杉並め、なんの目的でこんなことを。学園長という立場のさくらさんに貸しを作っておきたかったのか? それとも、単に面白いから、か?

「まったく、学業は学生の本分なんだから。もうちょっと頑張らないと」
「……しかし、唐突ですね。これまでは……」

 冬休みに全く勉強していないところを見ていたのに、何故、今になってから音姉みたいなことを。

「ん〜、ちょっとね義之くんが心配になって。後、一ヶ月もしたら学年末試験でしょ? 付属3年の義之くんにとっては一応、本校への進学試験も兼ねてるんだから頑張らないと」
「はぁ……」
「赤点取って補習なんてことになったら大変だよ〜。義之くんの大好きな自由な時間が減っちゃうからね」
「はは、気をつけます」

 「保護者」である、この人にこれだけ言われてしまっては俺としては、苦笑いするしかない。
 普段、勉強をサボりがちなのは言い訳できない。けど、今に限っては本当に勉強どころじゃなかったりするんだよな……。まぁ、さくらさんはそんな事情は知らないだろうけど。

「…………ボクの子供なんだから、ちゃんと勉強すればきっと伸びるよ」
「? 何か言いましたか、さくらさん?」
「あはは、なんでもな〜い♪」

 そんなことを考えている時にさくらさんが小声で何かを呟いた。しかし、本当に小さな声で聞き取ることは出来なかった。
 見るや、ハーブ・ティーの方は冷めるまで放置なのか、チーズケーキの方に取り掛かっている。

「ここって、ケーキもおいしいよね〜」
「そうですね。このショコラも美味い」
「ふ〜〜ん、ちょっと拝借っ♪」

 再び身を乗り出してきたさくらさん。
 そのまま、俺の手元のショコラの一部を奪い、自らの口の中へと運ぶ。

「うん。美味しい〜〜」

 二人の時間は過ぎていく。
 ゆったりとした時間。今、俺が抱えている問題なんて忘れてしまうくらいに穏やかで、楽しい時間。
 お礼とばかりにさくらさんのチーズケーキを分けてもらったり、クリパでの話をしている内にあっというまに時間は経っていく。
 授業中と今とで、本当に時の流れが同じなのか、実に疑問だ。

 そんな折だった。

「…………ねえ、義之くん」

 さくらさんが、静かに口を開いたのは。

「さくらさん?」

 それまでの和気藹々とした雰囲気から一変。どこか、寂しげな顔で、俺のことを見ているさくらさんに気が付く。

「ちょっと、変な話をするけど、いいかな?」
「変なこと……?」
「うん。本当に変な話。それでいて面白くもなんともない、下らない話なんだけど……」

 ………………。
 カフェ・オレを最後まで、飲み干し、カップを置くと、俺もさくらさんを真っ直ぐに見た。

「いいですよ。何でも、どうぞ」
「ありがとう……義之くん」

 さくらさんの顔に一瞬浮かぶ、安堵の表情。
 一拍、置くとさくらさんはゆっくりと語りはじめた。とても、不思議な話を。

「家族二人が、同じ道を歩いていました」
「家族……?」
「うん。二人っきりの、…………家族。
 二人はね、ずっといっしょの道を歩んでいたんだ。そして、これからもいっしょの道を歩もうと思っていた」
「いた?」
「ところが、ね。 事情があって、二人は同じ道を歩けなくなっちゃったんだ。別々の道を歩かなくちゃならなくなった……」
「………………」
「その二つの道が方向も、何もかも、全然違う道でね。あげく、二人は相手がどんな道を歩いているのかも解らないんだ……、どこにいるのかも……」

 解らない。
 話の中身も、何故さくらさんがそんな話をするのかも。

「それでね。義之くん……。 その二人はまた会えるかな……?」
「…………相手の道は何も、解らないんですか」
「うん。本当にわからない。すっごく濃い霧が立ち込めていたり、大雨が降っていたりで、相手のいる道を知ることは絶対にできないんだ」

 何かの、暗喩か?
 しかし、解らない。
 急に変わった雰囲気に対する戸惑いもあるのかもしれない。
 考えても、何も、わからない。それだけに。

「会えると思いますよ」

 思ったままのことを言った。
 俺の答えにさくらさんは、多少、驚いたようで、瞳をぱちくりとさせて、俺を見た。

「無理だよ……。相手の向かった先も、今居る場所も解らない。……そんなんじゃ、絶対に……探せるわけが……」
「相手に会うためには相手の道を探さないといけないんですか?」
「え……?」

 俺は何を言っているんだろう。
 しかし、言葉は、自然と。俺の口から出た。

「瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ」

 その一節。

「和歌……?」
「ええ。ちょっと、今日の国語の授業で出てきたので。意味は……」

 川の瀬の流れが速いので、岩にせき止められた水、一度は二筋に分かれても、また出会うように。私たちも将来、一緒になれると思っている。

「一度は分かれても……また出会う……」

 そう、たとえ、別れたとしても、道を違えたとしても、二手に分かれた川の筋が、また一つに戻るかのように。
 また出会える日が来る。一緒に道を歩いていける日が訪れる。
 何故だか、その文脈が妙に印象に残ったので、覚えていた。

「相手を探さなくてもいい、探せなくてもいい。歩んだ道が、どこかで相手の歩む道と交わるかもしれない。
 そうしたら、二人は、また同じ道を歩める。……でしょう?さくらさん」

 一度、違えた道がもう二度と元に戻らないなんて決め付ける必要はないんだ。
 相手のところへと、無理に目指す必要はない。その道が先へと続いているのなら、その道を歩み続けるのなら、きっと出会える日が来るから。
 だから、ただ歩いていればいいんだ。

「…………うん」

 さくらさんは、言葉を噛み締めるように頷く。
 相変わらず悲しそうな顔、だけど、その中にうっすらと微笑が浮かんでいた。

「……一つだけ、約束してくれるかな。義之くん」
「約束……?」

 何かにすがるようなさくらさんの顔。
 その姿は凄く儚くて、今にも消えてしまいそうで…。

「うん。ボクが本当に困った時は……助けに来てくれる、かな……?」

 なんでそんなことを言うんだろう。
 まるで別れの言葉を紡ぐかのように。さくらさんは声を発する。
 彼女の真意が、解らなくて、思わず呆気に取られてしまう。
 謎掛けか?いつものように俺をからかっているのか?
 疑惑が頭を過ぎる。
 けど、その碧い瞳は真剣で。そして、何よりも。

「………………」

 凄く、悲しそうで。

「それは……できません」
「え……?」
「わざわざ約束する必要なんてありません。貴方に何か困ったことがあるなら力になります。すぐに助けに行きます。どこだろうとも、飛んで行きます」

 俺だけじゃない。
 多分、音姉も由夢も、そして、純一さんも。同じことを言うだろう。
 だって俺たちは。

「家族、ですから」

 家族。
 少し、気恥ずかしさもあったけど。
 その言葉は、すんなりと喉から出た。

「あ…………」

 さくらさんの瞳が一瞬、潤んだように見えた。

「ありがとう……義之くん」

 沈黙。
 俺もさくらさんも、それ以上は言葉を交わそうとしない。
 胸が痛む。さくらさんの真意がまるでわからない。そして、今はさくらさんのことまで考えている余裕のない自分が悔しくて、歯痒い。

 …………悲しい、沈黙だった。



「目標、発見しました!」

 喫茶店を出た俺たちはμの甲高い声に出迎えられた。

「学園長〜〜、やっと見つけた! こんなところで何してるんですか、携帯も繋がらないし!」

 続いて、血相を変えて駆け寄ってくるのは白衣に眼鏡の女性――水越先生の姿が目に入る。背後には水越先生の愛車の姿。相当慌てていたのか、かなり荒っぽい止められ方をしている。……っていうか違法駐車だよな。
 その水越先生の様子を見て、一つの推測が俺の頭の中に浮かんだ。
 ゆっくりと、さくらさんの方を向くと、さくらさんは、その碧い瞳を気まずそうに伏せていた。

「……さくらさん、仕事終わったって……」
「あははは……実はちょっと抜け出してきちゃったんだ♪」
「きちゃったんだ、じゃないでしょう……。なんでまた」

 流石の俺も呆れてものが言えない。
 俺もさぼりはよくやるが、さくらさんは仮にも学園長という立場。
 一介の学生とは背負っている責任の量も、重さも全然違う。やっぱり、色々とまずいんじゃないだろうか。
 お前に人の事が言えるのか、といわれれば、まぁその通りなんだけど。

「…………最期に義之くんとお話したかったから」
「え?」
「それじゃあ、ちょっと行ってくるね!」

 さくらさんが何かを呟いたような気がしたけど、聞き取ることができなかった。
 瞬く間に、水越先生の車のところまで走っていき、彼女に頭を下げる。ごめんごめん、と言っているのが聞こえてくるかのようだ。
 一頻り謝った後、乗車を促す水越先生を尻目に、さくらさんは俺の方を向いた。

「ばいばい、義之くん」

 その瞳に涙が浮かんでいるように見えたのは俺の目の錯覚だったのだろうか。
 まるで今際の別れのような、挨拶。それが、少し気に入らなかった。

「さくらさん」

 だって、別れの挨拶は、明日のために。
 また次に会う日のためにするものだから。
 だから、俺は。

「また家で会いましょう! 美味しいご飯を作って、みんなで待ってますから!」

 思いっきり声を張り上げて叫んだ。
 一瞬、さくらさんは呆気に取られたかのように、目を丸くしていたけど、その顔が少しずつ、笑顔になっていって。

「うん! それじゃあ、またね、義之くんっ」

 最後には、俺に満面の笑みを見せてくれた。




 たしかに、永遠なんてものはない。
 この世の中、いつかは別れが訪れる。
 けれど別れた者たちが、違えた道が、もう二度と交差することはないなんて、誰が決めた。

 瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ。

 きっと、また出会える日が来る。俺はそう信じたい。いや、信じている。
 あの日から、たくさんの年月がたった今でも、ずっと。
 ――――貴方が、この家に帰って来ることを、信じています。
 俺が愛する人と共に作り上げた家族で、ずっと貴方の帰りを待ってますから。
 だから、いつでも帰ってきてくださいね、さくらさん。



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