「第二話 映画、撮るわよ」




 喫茶店の入り口の扉を開くと中から冷房の冷気があふれ、義之たちを包んだ。この夏真っ盛りの日中。地表を照らす太陽の強烈な熱線と湿気混じりのじめじめした嫌な熱気に耐えながら外の往来を歩いてきた身にはこの冷気が心地よい。隅々までエアコンの冷風が行き渡った店内は外の世界とはまさに別世界だった。自然、義之の口からは「ふぅ」と安堵の息が出ていた。

「すずしぃ……生き返る」

 傍目も気にせず義之がだらしない声を出すと、その隣では義之同様、外の暑さに相当参ったのであろう。ぐったりした様子のアイシアが「ほんと、生き返るね〜」と笑った。

「あたし、日本のことも初音島のことも大好きだけど流石にこの暑さは好きになれない、かな」
「……多分、日本人でも夏の暑さが好きな人はそんなにいないと思いますよ」

 そんなアイシアの隣で由夢が苦笑いを浮かべる。彼女は義之やアイシア程、おおっぴらに暑さに参ったという態度は取っていないものの、店内に入ったことで明らかに外を歩いていた時よりも表情は緩んでいた。「日本の夏は暑いからねぇ」とさくらも頷く。

「外歩いている間、ボク、とけちゃうかと思ったもん」
「あはは……」

 ほんとに参った、とでも言うように語るさくらに義之は苦笑いを返した。とけることはないだろうが、そう考えても仕方がないくらい外の熱気は酷かった。

「全く。杏のヤツ、こんなくそ暑い日に人を呼びつけやがって……」

 あれからしばらくして朝食後に適当に団らんし、お昼時になったので義之が用意した昼食をみんなで食べた後、義之たちはストレートにここに来た。朝は控えめだった太陽は真っ昼間という時間帯、最も高い位置に昇り地表を照らし、義之たちをおおいに苦しめてくれた。この季節だ。仮に呼ばれたのが昨日でも明日でも初音島を包む熱気にそこまで変わりはないのだろうが、ついついそんな愚痴が口をついて出る。
 そんな風に店の入り口付近で四人して暑さへの不満を語っていると、店の奥から店員が顔を出した。

「すみません、おまたせしました。……って桜内さん?」
「よっ」

 この喫茶店は義之とアイシアのバイト先だ。であれば当然、接客に出てきた店員とも顔見知りである。
 アイシアがここでバイトをしている時に着ているものと同じタイプのそこらじゅうにフリルのついた純白のメイド服を身に纏った女性店員。彼女は最近、入ったばかりの新人であり、年の頃は義之より少し下だ。先輩として義之が何かと面倒を見てあげている子だった。

「それにアイシアさんも。いらっしゃいませ〜。四名様ですか?」
「いや、ちょっと待ち合わせをしてて」

 義之がそう言うと後輩店員はああ、と得心がいったような顔になった。「ひょっとしてあちらのお席にお座りの方々ですか?」と店の奥のテーブル席を示す。そこには見慣れたゴスロリ服――このくそ暑い中、その服で炎天下を歩いてくるのはきついだろう――に身を包んだ雪村杏の姿があった。どうやらまだこちらには気付いていないらしい――と思った瞬間、くるり、とその顔がこちらを向いた。次いで、隣の席で杏と談笑していたらしい茜も杏の視線を追ってこちらを向く。

「あ! 義之くんたちだ! やっほ〜!」

 周りの目にもかまわず茜が大声を出す。相変わらず騒がしいヤツ、と思うものの義之の悪友連中にとってこのくらいの騒がしさはまだまだ序の口だ。後輩店員がくすり、と笑う。

「間違いないようですね」
「まぁね……」

 義之は苦笑するしかなかった。何故彼女に義之の待ち合わせ相手がわかったかと言えばその理由は簡単だ。
 杏たち風見学園の悪友連中は義之がこの喫茶店でバイトをしていることを知ってからというものの、何かにつけてここを訪れるようになってしまった。それ以前はみんなで集まる場所と言えば『花より団子』か『ムーンライト』のどちらかが多かったのだが、今やすっかり集会場所としてこの喫茶店が定着してしまった。それこそ入ったばかりの新人店員でも顔を覚えるくらいに。
 ひやかしに訪れてはなんやかんやで義之とアイシアをからかう杏たちの姿を彼女はしっかり覚えていたのだろう。

「では、ごゆっくりどうぞ」
「あ、ちょっと待った」

 踵を返して去ろうとする後輩店員の背中に義之は声をかけた。

「なんでしょう?」
「いや、特に用ってことじゃないんだけど……仕事、慣れた?」

 後輩店員は一瞬、呆気にとられたような顔をし、しかし、すぐに笑顔を浮かべた。

「はい。おかげさまで。一通りは」
「そっか。そりゃよかった」

 ちょっとだけ照れくさそうな笑顔に義之もまた笑顔を返す。

「これも桜内さんの指導のおかげです」
「いや。俺はたいしたことはしてないよ。君が頑張った成果さ」

 たいしたことはしていない、とは思うものの、一人前に業務をこなせるようになってくれたのは指導役としても喜ばしいことだ。後輩店員の成長を我が事のように胸中で喜んでいると、「すみませ〜ん」と客席の方から店員を呼ぶ声が聞こえた。

「あ……それじゃ、少し行ってきますね。桜内さんたちも注文が決まったらおよびください」
「ああ。引き留めちゃってごめんね」

 いえ、と後輩店員は特に気にした風もなさそうに言うと最後にもう一度笑みを浮かべて、足早にお客さんのところに歩いて行った。その後ろ姿を見送り、「それじゃあ、俺たちも座るか」と振り向いた義之が見たのは、

「う〜〜〜」

 なにやら不機嫌そうに頬を膨らませるアイシアだった。

「ア、アイシア……? どうした?」
「べっつに〜。なんでもないよ〜」

 全然、なんでもないことはなさそうな表情に口調。義之が困惑していると「にゃはは」とからかうようにさくらが笑った。

「義之くんがあんまりにもさっきの子と仲良さそうに話してるからだよ」
「仲が良さそうって、そりゃ、同僚だから仲はいいですけど……それが?」

 どうしたというのだろう?

「にゃはは、義之くんはまだまだ女心がわかってないな〜。ごめんねアイシア。こんな女心にうとい息子で。義之くんに代わって母親のボクが謝っておくよ」
「うー……」
「? うーん、なんだかよくわからんがとにかく杏たちのところに行こうぜ。あっちも俺たちを待ってるみたいだし」

 杏たちの方を見れば、杏と茜がいつまでそこでそうしているの、と言わんばかりの表情をこちらに向けてきている。そう言って、義之はみんなを促したが、その間もやっぱりアイシアはちょっとだけ不機嫌そうな表情を浮かべ続けていた。



「来たわね」

 そうして。
 そう遠くない距離。喫茶店のテーブルとテーブルの合間を歩き、義之たちが待ち人のところに辿り着くと、待ち人――雪村杏はいつも通りの自信に満ちたしたり顔で義之たちを出迎えた。

「この炎天下に人を呼びつけておいて第一声がそれか」

 声音に呆れか、あるいは諦めの感情を込めて義之が肩をすくめると、「まぁ、いいじゃない。どうせ暇だったんでしょ?」などと返ってくる。

「今日は、な」

 これでも一応はアルバイトをしている身だ。学園が長期休暇に入ろうともバイトが休みになることはない。さらにいえば一応は受験生の立場である。いかに夏休みといえ別に毎日毎日惰眠を貪っているわけではないのだが、この言われようだ。
 くすり、と杏は少し口角を上げると、義之の後ろについてきたアイシアたちに視線を向けた。

「由夢さん、アイシアさん、それに園長先生。こんにちは。わざわざ呼びつけてしまってすみません」

 そして発せられた挨拶は義之に対する態度とは全く違う謙虚なものだった。

「別にいいよ〜、ボクも今日はお仕事がなくて、暇してたところだしね」

 にゃはは、とさくらの笑い声が響く。いつも通りのその明るい笑顔に場の雰囲気も安らぐ。さくらに続き由夢とアイシアも「こんにちは」と挨拶を返すと杏の隣の席に座っていた茜もまた続いて「こんにちは〜」と挨拶をする。そして、

「……でお前は何をそんなにガチガチにかたまってるんだ」

 義之は残る一人に声をかけた。

「ふ、ふぇっ!?」

 その最後の一人。身を隠すように縮こまっているのは雪月花最後の一人。――月島小恋だ。
 何に驚いたのかは知らないが、彼女は呼びかけに対して素っ頓狂な声をあげ、間の抜けた表情を義之に向ける。

「久しぶりだな、小恋」
「……う、うんっ。義之も久しぶり」

 義之の気軽な挨拶にも、小恋はガチガチに緊張した挨拶を返す。全く、久しぶりの再会とはいえ、何をそこまで緊張しているのやら。久しぶりに見る幼なじみの相変わらずの姿になつかしさが義之の胸の中に満ちた。
 月島小恋。義之の幼なじみであり、雪月花三人組の一人である彼女は2年半前、風見学園付属卒業と共にここ初音島を離れ、本島へと引っ越した。理由は所謂、家庭の事情、というやつだ。父親が単身赴任で本島で仕事をしていたため月島一家は離れ離れで暮らしていた。それが一緒に暮らせるようになったのだ。決して悪からぬ月島一家の家族仲を思えばそのことに友人として喜びこそすれど悲しむなど筋違いなのだが、やはり長年の幼なじみが島を離れて自分たちから遠いところに行ってしまうということにさびしい思いを抱かずにいるというのはどだい無理な話だった。
 音姫や小恋といった身近な人々が次々と初音島を離れて行ってしまうことにこうして最終的にはみんなバラバラになってしまうんじゃないか、なんて未来を予想して、不覚にも胸の中が締め付けられるような悲しみに襲われたのは否定できない。
 義之でさえそうなのだから雪月花三人組などと言われ、小恋と特に親しくしていた杏や茜の胸中も推して知るべし、というものだろう。
 だが、住む場所が異なったからといってそれで付き合いがなくなってしまう程、薄情な仲でもない。メールや電話でのやりとりはちょくちょくしているし、音姫同様、こうして長期休暇などの際には初音島に帰ってきて、その元気な姿を見せてくれる。
 この夏休み、小恋が初音島に帰ってくる日、折悪しくバイトが入ってしまった義之は港まで出迎えに出ることはできなかったため、今回、小恋が帰郷してから会うのは今日が初めてだ。
 夏休みということもあって、しばらくの間、滞在ができるらしいが、初音島にある元・小恋の家は今は別の人に貸し出してしまっているため、聞くところによると杏の家に居候させてもらっているらしい。

「久しぶりだね、小恋ちゃん」
「小恋先輩、お久しぶりです」
「小恋ちゃん。はろはろ〜♪ 久しぶり!」

 アイシア、由夢、さくらも次々に小恋に再会の挨拶を述べる。これ以上ない程の気軽さだったが、小恋はやはり体をこわばらせて「お、お久しぶりです」と恐縮したような言葉を返した。

「……もう一回聞くが、お前はなにをそんなにがっちがっちになってるんだ」

 呆れ混じりの義之の言葉に小恋は「うう〜」と顔をうつむけ、少し思案するようにそのままでいると、再び顔をあげた。

「だ、だって〜。義之や芳乃先生と久しぶりに会うって思うと緊張しちゃって。わ、私……変なところないかな?」
「変なところも何もいつも通り……ってのも変か」

 今となってはいつも会っている訳ではなく、今日は久しぶりに会ったのだからこの言い回しはおかしい。「別に何も変じゃないと思うけど」と義之は思ったままのことを告げた。

「そ、そうかな? それならいいんだけど……」

 相変わらずの気弱な幼なじみに義之としては苦笑いを浮かべるしかなかった。しかし、それを見ると小恋は怒ったように頬をふくらませる。

「むー、なんで笑うかなぁ」
「いや、だって、なぁ?」

 義之は同意を求めるように杏と茜の方を見た。

「小恋は小恋だなぁ、って思って」
「そうね。小恋が相変わらずで私としても安心するわ」
「うんうん。小恋ちゃんはやっぱりこうでないと」

 雪月花随一のいじられ役の変わらぬ姿にみんなして安心する。そんな様子を見て、小恋はさらに不満そうに頬をふくらませるのだった。

「ふ〜んだ。これでも私、今の学校ではどちらかと言うとツッコミ役なんだよ?」

 そんな少し拗ねたような小恋の言葉を聞きながら義之たちは席についた。店員を呼び、それぞれ適当に飲み物を注文する。注文をとりにあらわれたのは先ほど、会話をかわしたばかりの義之(とアイシア)の後輩店員だった。注文を聞き、去って行く店員の後ろ姿を眺めながら「それにしても、義之もやるわね」と杏が言う。

「なにがだ?」
「見てたわよ。さっきの店員さんとの会話。アイシアさんという伴侶を持っておきながら別の女を口説くなんて……やるじゃない」
「はぁ?」

 口説く? こいつは何を言っているのやら。

「さっきのって、店に入ってきた時のやりとりのことか? あれは別に。彼女はここのバイトの後輩で先輩として話をしてただけだ」
「その割には随分、親しそうだったね〜」

 杏だけではなく、茜までにやにや笑いを浮かべて邪推してくる。こいつまで絡んできたか、と思う一方、杏が誰かをからかう時は概ね茜もセットでからかってくるものだったな、と思いなおす。その対象が小恋であれ自分であれ。
 そりゃ、同僚だし仲は悪いわけじゃない、と先ほどさくらたちに説明したのと同じことを義之が言おうとした時、

「義之くん、あの子とよく一緒にいるよね〜」

 アイシアの声が義之の言葉を遮った。
 見れば先ほどと同様、アイシアは少しだけ不機嫌そうに頬をふくらませている。

「それに一緒にいるだけじゃなくてアルバイト中、ずっと気にしてるし」
「……そりゃ彼女の面倒みるように、って店長から任されてるからな。気にしないわけにはいかないだろ」
「う〜〜! それはわかってるけど……」

 それでも不満なんだよ、とアイシアは拗ねるように言った。わかってるのならなんで、と義之が思った時、「にゃはは」とさくらの笑い声が響いた。

「女心は複雑なんだよ、義之くん」
「あはは……義之も相変わらず変わりないみたいだね」

 何故か小恋にまで笑われてしまった。義之は少し納得がいかないものを覚えつつも、「だいたい気にしてるってのならアイシアもだろ」と切り返す。

「アイシアがどんなドジをやらかさないかって一緒のバイト中、俺は気が気でないんだぞ」
「むー、そんなのあたしは義之くんの奥さんなんだから義之くんがあたしのことを気にするのは当然でしょ! ……でも、あたし以外の女の人を必要以上に気にするのはダメなの!」

 それだけを言うとアイシアはそっぽを向いてしまう。そういうものだろうか?
 義之はなんともいえぬ居心地の悪さを覚えた。いずれにせよこの話題を続けていてもあまりいいことはなさそうだ。話題を変えなければ。そう考え、思考を巡らせた義之はハッと思い出した。そうだ。そもそも、こんなところに呼びつけられたのはこんなわけのわからない話をするためではない。

「そ、そんなことより……」
「え〜! あたしにとってはこんなに大事なことなのに、義之くんにとっては『そんなこと』なんだ!」
「あー、いや、それは言葉のあやで……と、とにかく!」

 ごほん、と。義之はわざとらしく咳払いをして杏を見た。

「この炎天下にわざわざ俺たちを呼びつけた用件はなんなんだ、杏。それも俺だけじゃなくアイシアや由夢。それにさくらさんまで来てほしいなんてただ事じゃないだろ」

 義之の言葉に杏の雰囲気が変わった。それまでの人をからかう時に浮かべる不敵な笑みは消え、真剣な色がその表情を覆う。「そうね……」と短く呟いたその口からどんな言葉が飛び出すのか、義之は微かに体をこわばらせた時。

「お待たせしました〜」

 唐突に割って入った声がその雰囲気を裂いた。見ればテーブルのそばまで来ているのは先ほど話題にあがった義之の後輩店員。義之たちが注文した飲み物を配膳しにきたことは誰の目にも明らかだ。
 見事に話の腰を折られる形になってしまったが「ありがとう」と義之は言い、注文したアイスコーヒーを受け取った。由夢、アイシア、さくらもおのおのが注文品を受け取る。
 アイスコーヒーにストローをさし、まずは一口。よく冷えたコーヒーの苦みが心地よかった。
 そうして、義之が話の続きを聞こうと再び杏の方を向くと、

「あ、店員さん。このデラックススィート南国風アイスパフェをお願いします」
「はい。かしこまりました」

 杏は何やら追加注文をしているところだった。

「また随分高いもんを頼んだな……」

 杏が注文したパフェは1000円に届く一品だったと記憶している。

「ええ。……どうせ義之が払ってくれるんだから、高いものを頼んでおかないと損だしね」
「そうだよね〜。それなら私も同じものを……」
「ちょっと待てい!」

 唐突な発言に思わず椅子から立ち上がってしまう。そんな義之の様子に杏はくすり、と笑い、「冗談よ」と告げた。

「そんなに慌てることはないじゃない」
「そうだよね〜。義之くん、慌てすぎ〜♪」
「あ、杏〜、茜〜、あんまり義之をいじめちゃだめだよ〜」

 お前らが言うと冗談に聞こえないんだよ。口には出さず内心でそんなことを思うと義之は椅子に座り直した。
 そんな義之たちの様子に笑いを隠しきれなかったのか、店員はくすくす、と微笑を浮かべながら去って行った。その後ろ姿を小っ恥ずかしい思いで見送り、仕切り直すように再び杏を見る。

「……で、どういう用件なんだ?」
「ボクも気になるな〜」
「あたしもあたしも」

 義之の問いにさくらとアイシアも続く。

「まぁ、待ちなさい。まだ役者はそろっていないわ」
「役者? 渉たちのことか?」

 杏は首肯する。

「同じ事を何度も話すのは手間だしね、どうせなら全員そろってから話そうと思うの」

 杏がそう言った直後「ふむ。賢明な判断だ」とどこからともなく声がした。突然のことにその場にいた全員が思わず声の方を向く。

「ふっ、おはよう……否、もうこんにちはの時間帯か。皆、この猛暑にも負けずご健勝のようで何よりだ」

 そこにはいつの間にやってきたのか。偉そうに腕を組み、不敵な笑みを浮かべる杉並の姿があった。



「杏先輩! 来たぞ!」
「みんな、やっほ〜♪」
「うぃーすっ! すまねえな、少し遅れたか?」

 今日この場に呼ばれている残りの3人。天枷美夏と白河ななか、板橋渉もほどなくしてやってきた。
 その中でもななかは小恋の姿を眼にとめるとその瞳を輝かせた。

「小恋〜、久しぶり〜!」
「うん。ななかも久しぶり……ってななかは私が初音島に帰ってきた時に会ってるでしょ」
「あはは、それはそうだけど、なんとなく、ノリで」
「……もー、そのまま一緒に買い物までしたじゃない」

 ぺろり、と舌を出すななかに小恋が困ったように息を吐く。

「つ、つ、月島……その、あー、ひ、ひ、ひ……ひしゃひぶりだな」
「あ、噛んだ」

 小恋と再会の挨拶をかわそうとしたのだろう。そんな渉のテンパりぶりに茜がくすり、と笑う。

「う、うるせぇ! こほん! ……とにかく、月島、久しぶり」
「うん。渉くんも相変わらず元気そうだね」
「ふっ、それが板橋の唯一の取り柄といってもいいからな」

 本気で嬉しそうな渉の笑みに小恋も笑顔を返し、杉並が苦笑する。
 どうやら渉は小恋が帰ってくる日に出迎えにいったわけではないらしい。
 当日、港まで出迎えに行ったのは杏と茜、そしてななかといったところか、と義之は推察した。そして、いざ小恋を目の前にしてのこの反応を見るに渉が小恋に抱いている感情もまた変わりないらしいこともうかがえた。

「あー、つ、月島、その、なんだ」
「うん。何?」
「あ、いや、……あっはっは、きょ、今日も暑いよなぁ〜、いやぁ、暑い暑い」

 だが、この様子を見るにその思いが実を結ぶのはなかなか難しいことだろう。久しぶりに会って緊張しているのか、どうやらまとも目をあわせることさえ困難なようで渉は挙動不審な動きを繰り返している。
 同じことを思ったのか、杏と茜も渉の様子にこっそりとため息をついていた。
 何はともあれ、こうして集合がかかっていたメンバーは全員集まった。その人数は10人を超え、これだけ多ければ喫茶店の一角を完全に占拠してしまうかたちになる。
 あまりうるさく騒いで店側に迷惑をかけないでもらいたいものだが、などと義之が店員視点での考えをしている間に遅れてきたメンバーもそれぞれ飲み物や軽食を注文し、それらが運ばれてくるまではみんなして談笑タイムとなった。義之の懸念は的中し、10人超の人間でかわされる会話は非常に賑やかなことになった。普段から騒がしい面々に加えて今日は小恋やさくらというゲストもいるのだからそれも無理からぬことだが。
 そうして、注文品の到着すると共にいよいよ議題の発表となった。

「それで杏。もう一回聞くが今日、俺たちを集めた用件はなんだ?」

 確認を取るように発せられた義之の言葉に杏は巨大パフェをつついていたスプーンの動きを止める。騒がしかった他の面々も一時的に会話を打ち切り、杏の方へと視線が集中する。多くの視線をあびながらも杏はいつも通り、平然とした顔のまま、なんてこともなさげに、

「映画、撮るわよ」

 そう言い放った。
 凜と耳に響く、いつものように涼やかで平坦とした声は元来のポーカーフェイスと相まって、そこに込められた感情を読み取ることが難しい。
 しかし、それが冗談でもなんでもなく確固たる意思の元で発せられたものであるということを理解できる程度には義之は雪村杏という人間を知っていた。

「…………」

 絶句。そしてまじまじと目の前にあるポーカーフェイスを見つめた。ワンテンポ遅れて「映画ぁ?」と渉の声が響く。その声からさらに数刻の間を置き、義之の口から「マジか?」と声がこぼれた。
 少なくとも義之にとってその提案は「はい。そうですか」と素直に受け入れるにはあまりに突拍子のないことだった。

「マジもマジ。大マジだよ」
「うむ。杏先輩は冗談など言ってないぞ」

 茜と美夏がそう言って肯定する。その口ぶりから察するに2人はあらかじめ杏が今日、みんなに何を言うのか、もっといってしまえば杏が何を計画しているのかを知っていたのだろう。
 しかし、そう言われても胸中の困惑はおさまらない。
 そして、当然のことながら困惑しているのは義之一人ではないようだった。義之の右隣に座るアイシアはルビーの瞳を驚きに見開いているし、由夢も同様。さくらとななかは不思議そうに首を傾げ、小恋は「え?え?」と今、杏の口から発せられた言葉がいまいち理解できないのか困惑して視線をあちこちに送っている。渉も「本気か?」と問いかけるように瞳を見開き、平然としているのは杉並くらいのものだった。「ふむ」などと意味深に呟くと何かを思案するように腕を組んでみせる。

「映画って……杏ちゃんたちが作るの?」

 半信半疑といった様子のアイシアに杏はこくり、と頷いてみせる。「それはすごいね〜」とさくらが心底感心している声で言うと、茜は得意げな顔になり解説をはじめた。

「ほら、私たちも気がつけばもう本校3年生。次の春にはもう風見学園を卒業でしょ? だからね、何かみんなで記念になることをしようって思って」
「それで映画か」

 義之の言葉にうん、と茜は笑顔をたたえたまま頷く。

「この夏休みを使って映画を撮影して、それを秋の文化祭か春の卒パで上映しようって思うんだ」

 風見学園本校3年生、卒業を間近にひかえた面々での映画製作。
 なるほど、たしかに、これはメールでの連絡などでは済ませられないビッグイベントだ。風見学園にいる長い時間の中で自分たちは様々なことをしてきたが、その最後を飾るにはふさわしいかもしれない。義之はそう思った。

「映画か〜、最初は驚いたけど……うん、面白そうかも」
「そうだな。どうせなら俺たちの学園生活の集大成になるようなものを作ってやろうぜ!」

 みんなも同じような考えに至ったのか、最初は困惑していた様子だった面々だが、次第に『みんなでの映画製作』というイベントへの期待感が場を支配していく。皆のテンションが上がっていっていることを義之は肌身で感じた。渉のように普段から騒がしいやつから、小恋のようにおとなしいやつも。なんだかんだでみんなこういったお祭り騒ぎが好きなのだ。

「うーん、でもでも、映画って簡単に言っても、機材とか色々必要でしょ? そこのところはどうなの?」

 そんな中、ななかが少し眉根を寄せて訪ねる。それは義之も気になっていたことだ。しかし、その質問に杏は動じることなく、相変わらずの不敵な笑みを返した。

「ふふっ、大丈夫。その辺りは抜かりはないわ。既に風見学園の映画研究会と協力の約束は取り付けてあるの。勿論、私の演劇部も全面協力の予定よ」
「衣装提供などに関しては手芸部と話をつけてある」

 杏と美夏の返答に「おおー」とみんなそろって感心する。準備は万端ということか。

「脚本と総監督は私が兼任するわ」
「脚本ってもう完成しているのか?」

 義之の問いに杏は小さく頷いた。

「そうね。脚本はもうほとんど完成しているわ。後は出演者さえ決まればそれを役に当てはめて完成、ね」
「その出演者ってのは当然、俺たち……なんだよな?」
「当たり前じゃない義之くん。じゃないと記念にならないでしょ?」

 茜の返答は予想できていたものだった。やっぱりそうか、と義之が納得していると「ええ〜!」と悲鳴に近い声があがった。

「私、役者さんなんて無理だよ〜」
「えー、なんでー? 面白そうじゃない」

 悲鳴の主は小恋だった。「むりむり〜」と首を振る小恋と楽しげな様子で笑うななか。

「……というかそもそも小恋の役はあるのか?」

 そんな2人を横目に見ながら義之はふと胸中にわいた疑問を口にした。小恋が初音島にいる期間は限られている。それを考えると小恋の役はない、という可能性も十分に考えられるものだった。

「もちろん何らかの役をあてがうわよ。私たちの記念の映画なんだから。大丈夫、ちゃんと小恋が初音島にいる内に撮影できるようにするから」

 まるで動じず、こう言い切られてしまっては流石、としか言いようがない。もっとも当の小恋は気遣いに喜ぶどころか逆に困っているようで「そんな〜」などと弱気な声をもらす。

「ついでに言っておくと音姫先輩にも参加してもらいたいわね」
「音姉もか?」

 これには流石に義之も驚かざるを得なかった。たしかに音姫はもうすぐ初音島に帰ってくるし、結構な長期滞在をする。映画撮影にも問題なく参加できるだろう。
 しかし、小恋同様、初音島を離れている身とはいえ、杏にとっては小恋ほど連絡を取り合っている相手ではないだろうに、どうして帰ってくる時期がわかったのか。そんな義之の反応を面白がるように杏は「もうすぐ帰ってこられるんでしょ?」と続けた。

「その通りだが、その情報はどこから……」
「だいたいの推測はできるわよ。去年の夏に音姫先輩が帰ってこられた時期を考えれば、ね」

 したりと言ってのける杏に「手回しは万全というわけか」と杉並が不敵な笑みを浮かべて言った。

「杏。この映画、俺は参加するぜ。学年最後の年だ。派手なことやりたいって思ってたしな」
「板橋と同意見……というのがいささか気になるが、俺も参加しよう。ふふっ、非公式新聞部の全力を持って最高の映画に仕上げてみせようではないか!」

 渉と杉並が相次いで参加を宣言し、ななかも「私も〜」と手をあげて参加を表明する。そんな面々の様子を満足そうに眺めながら「それで、小恋はどうするの?」と杏は小恋に声をかけた。

「もう……こんな雰囲気じゃ断れないじゃない……月島も参加します……」

 ため息交じりに小恋はそう言うとうなだれた。
 各人が相次いで参加を表明する。そんな中、

「えーっと、それって私も参加するんでしょうか?」

 少しだけ申し訳なさそうに由夢が言った。
 「もっちろんだよ♪」と茜が笑顔で肯定する。

「で、ですが先輩たちの記念なんでしょう? 学年の違う私が出るというのは……」
「あはは、そんなの気にしない、気にしない♪ 楽しくやろうよ」
「そうだぞ、由夢。美夏も出演するつもりだしな。気にすることはない、なぁ、杏先輩」
「ええ……」

 杏は美夏の言葉に相槌を打ったところで自分に向けられた視線に気付いたのか、言葉を切り、視線の方を向く。

「勿論、アイシアさんも参加オーケーよ」
「えっ!? いいの!?」

 先ほどから杏に視線を向けていたアイシアの反応は驚き半分嬉しさ半分といったものだった。映画の話が出てからというものの、興味津々といった様子でずっとみんなの会話を聞いていた彼女は自分も参加したい、しかし、参加してもいいのか、といったことを考えていたのだろう。

「たしかに楽しそうだなー、あたしも参加したいなー、って思ってたけど……でも、あたし、学園の生徒ですらないんだよ?」
「そんなことは些細なことです」
「そーっすよ。それにアイシアさん程、画面映えする人は他にいませんって! いや、マジで!」

 杏の言葉に続き、渉が熱弁する。渉の意見、というのが少し気になるがアイシアが画面映えするといのはたしかだろう、と義之は思った。日本人では到底得ることのできない天然のアッシュブロンドの髪に真っ白な肌。役者として見ればこれ以上ないくらいの逸材だろう。

「……というより監督としては是非とも参加してほしい、というのが本音です。アイシアさんにはメインヒロインをやってもらいたいと思っていまして」

 メインヒロイン。そのキーワードに渉が「おお! メインヒロイン!」と、ななかが「凄い大役だね」と反応する。

「で、でも……」

 そう言われても尚、逡巡している様子のアイシアに義之は「アイシア」と声をかけた。

「茜の言葉じゃないがこれは『俺たち』の記念の企画なんだ。なら、『俺たち』の中にいるアイシアが参加するのはごく自然なことだろ? アイシアも俺たちの仲間、なんだからさ」

 義之はそう言うと、みんなを見渡した。皆、アイシアに向かってあたたかい笑顔を浮かべていて、異論がある者は誰一人としていないようだった。

「そ、そっか……それじゃ、あたしも参加するね! メインヒロインなんて大役がつとまるか、自信はあんまりないけど……よ〜し、がんばるぞ〜!」

 緊張に微かにこわばりながらも、ぎゅっと握り拳を作ってアイシアが宣言する。その可愛らしい仕草に義之は思わず自らの頬がゆるむことを感じた。

「よかったね、アイシア」

 そんなアイシアを見、さくらも我が事のように嬉しげな笑顔を浮かべる。

「それで義之はどうするのかしら?」
「どうするもこうするもな……」

 杏に問われて義之は言葉を濁した。

「おいおい、義之ちゃーん。まさかここで参加しないなんて言わねえよなぁ?」
「ふっ、同志桜内。既に答えは決まっているはずだ」
「当然、義之くんも出るよね〜?」

 渉、杉並、ななかが相次いで義之の背を押す。言われるまでもなくみんなで一緒に映画を作ろう、というこの雰囲気の中、さらにはアイシアに『俺たちの記念』などと言っておいて自分一人だけ参加しないなんて言い出せるはずもない。答えは1つしかなかった。

「出ようよ義之くん、あたしと一緒に。きっと、すっごく楽しいよ♪」

 アイシアのその言葉が最後の一押しだった。義之は杏の方に向き直ると、「俺も参加するよ」と言った。

「出ればいいんだろ? 出れば」
「ふふっ、ありがとう。義之」

 その答えを待っていた、と言わんばかりに杏は満足げに笑みを浮かべる。うまい具合にのせられた、という感は少なからずあるものの、それを嫌に思うことはなかった。

「義之くんも参加するんだね」
「ええ、どうやらそういうことになりそうです」

 微笑みかけてきたさくらに義之は苦笑を返す。

「それにしても杏ちゃん。すごいね、映画を作るなんて。みんなで作る映画。どんなものができるのかボク、いまから楽しみだよ♪」
「って言っても所詮は素人の集まりなんですからあまり期待しないでくださ……」

 その時、はたと気付いた。
 この集会。いつものメンバーで映画を撮るという話。それをするだけなら自分とアイシアと由夢だけを呼べばいいことだ。さくらさんまで呼ぶ必要はない。それをわざわざ呼んだということは……。
 義之は杏の方に視線を向けた。視線で問いかける。

「…………」

 そこにあるのは普段通りのポーカーフェイス。しかし、義之の目にはどことなく緊張した顔つきに見えた。「園長先生」と杏はさくらを呼んだ。

「うにゃ? 何かな、杏ちゃん」
「…………」

 気軽な笑顔を返したさくらに気圧されるように杏が言葉を止める。そうして、らしくない逡巡した様子を見せた末、意を決したように口を開いた。

「……この映画、園長先生にも参加してもらいたいんです」
「え? ボクも?」

 きょとんと目を丸くしたさくらに「はい」と杏が頷く。

「私が今、書いてる映画の脚本……その物語はアイシアさんと園長先生の二人こそがメインヒロインに相応しいと思うんです」
「アイシアだけじゃだめなのか、杏?」
「今の脚本はアイシアさん一人だけじゃだめね。ダブルヒロイン形式で書かれた物語だから」

 そのダブルヒロインのイメージがアイシアさんと園長先生なの。そう言うと杏はアイシアとさくらを交互に見た。

「メインヒロイン……メインヒロイン……うう、緊張するなぁ」
「うにゅ、なるほどね」

 義之もまたさくらとアイシアの二人を見た。同じくらいの背丈・体格に二人そろっての日本人離れした風貌。その中でも金色の髪と碧い瞳、銀色の髪と赤い瞳、対照的な要素はお互いの美しさを引き立てあい、たしかに二大ヒロインとするには申し分のない二人だろう。

「ふっ、なるほど。アイシア嬢と芳乃学園長の二人か、たしかにこの二人なら……」
「すっごく、サマになるね」
「……っていうかなりすぎだろ。これ以上ないくらい華やかで見栄えするじゃん」
「うん。私もそう思う」
「ただでさえ人目を引く二人ですからね。それが二人セットとなると……」

 杉並、小恋、渉、ななか、由夢も同意見のようだった。

「……と、いうわけなんですけど、どうでしょう園長先生?」
「うん、いいよ♪」

 即答だった。気軽な口調と脳天気な笑顔でさくらは頷いた。
 そのあまりのあっけなさに逆に義之が驚く羽目になった。

「い、いいんですかっ!?」
「うん。だって、なんだか面白そうじゃない?」
「そ、そりゃ、面白いかもしれませんけど……でも、さくらさん、お仕事は?」

 夏休み中だからといってさくらの仕事も休みになるというわけにはいかない。都合のいい日や悪い日があるのはみんな同じだろうが、おそらく中でも一番時間的制約がきついのはさくらに違いないだろう。だからこそ、こんなにあっさりと杏の申し出を受けるとは思わなかった。

「大丈夫、大丈夫♪ 昔と比べるとお仕事の量は減ってるし、ちゃんと撮影に出られるようにがんばってお仕事して終わらせるから♪」

 しかし、そんな義之の危惧もさくらにとってはまるで気にするに値しないことのようだった。気軽な口調と脳天気な笑顔は崩れることがなく、なんだか、その様子を見ていると一人、慌てている自分自身が恥ずかしくなってくる。

「それに〜、お仕事があるっていうなら義之くんとアイシアも同じでしょ?」
「それは、たしかにそうですけど……」

 学生がやっている喫茶店のアルバイトと教師がやっている学園長としての仕事は果たして同列に並べていいものなのだろうか。

「け、けど……」

 なおも義之が言葉を続けようとするとさくらは少しだけ気落ちしたように悲しげな顔をした。

「うにゅ……ひょっとして義之くんはボクが映画に出るのは嫌? ボクと一緒の映画には出られない?」
「そ、そんなことは……」

 そんなことはない。さくらさんと一緒に何かをするということにどことなく気恥ずかしさを感じるのは否定できないものの、それが嫌だ、ということは断じてありえない。
 義之が慌てて首を横に振ると再びさくらの表情に笑顔が戻った。

「なら、問題なし♪」

 さくらは一人でうんうん、と頷いてみせる。
 杏もまたさくらが一切、渋ることなくあまりにも簡単に映画への参加を快諾したことに驚いているのか普段のポーカーフェイスを呆気にとられたように崩してさくらの方に視線をそそいでいた。だが、義之よりは早くその現実を受け入れたのか杏は笑みを浮かべると、

「ありがとうございます、園長先生。園長先生のご助力があればきっと最高傑作ができあがると思います」

 感謝の言葉を述べた。

「ううん、お礼を言うのはボクの方だよ。ありがとね、杏ちゃん。こんな面白そうなことにボクを誘ってくれて」

 さくらの笑顔は相変わらずどこまでも明るいものだった。

「さくらも参加するんだ……」

 そんな明るい笑顔のさくらを見て、アイシアが呆気にとられたようにぽつりと呟く。かと思えば「さくらには絶対、負けないんだからね!」と握り拳を作って気合いの一声を発する。
 映画に役者として出演するのに勝つも負けるもあるんだろうか? 演技の上手い下手で優劣をつける、ということか? いずれにせよアイシアのさくらさんへの対抗意識は相変わらずのようだった
 そんな義之の思いは「ははは……」と苦笑いになって出た。
 いつものメンバーに加え、由夢やアイシア、さらにはさくらさんまで参加しての映画撮影。杏に呼び出されたという時点で面倒そうなことになりそうだとは危惧していたがこれは想像以上だ。だが。

(楽しみだな)

 面倒だと思う気持ち以上に、これからはじまるビッグイベントへの期待感がたしかに義之の胸の内を満たしていた。



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